そもそも、腕の中に飛び込めと言われても飛び込めるわけないじゃん。そんなことしたら、抱き合うような形になってしまう。

だからわたしはノアの腕をよけるように、わざと別の位置に着地した。

そんなわたしを見て、ノアがクスッと笑う。なんだか見透かされている気がして、胸がくすぐったくなった。



俺がいるから大丈夫。その言葉通り、ノアは迷いのない足取りで森の中を歩き始めた。

この町の住人じゃないと思っていた彼だけど、ひょっとしたら案外土地勘があるのかもしれない。


「何か、目印になるものとか覚えてる?」


大きく張り出した木の枝をヒョイとよけながら、ノアがわたしに訊いた。何度も枝にぶつかったり坂でよろけたりするわたしに比べ、彼は自然の中を歩くのがとても上手だ。


「たしか、小川みたいな所で遊んで、そこからそれほど離れてない場所だったと思う」

「小川か。ちょっと範囲が広いなあ」

「だよねえ」


あてにならないわたしの記憶に付き合わすのは、ちょっと申し訳ない気もする。けれどノア自身は至って楽しそう。

わたしたちはとりあえず、小川の下流を目指すことにした。