「ノ、ア……っ」


思わず、細く息を吸いこんだ。大きく後ろにのけぞったせいで、わたしの体はバランスを崩す。

「危ない!」その言葉と同時に伸ばしたノアの手が、わたしの腕をつかむ。が、それは被害を拡大させただけだった。

――すってんころりん!

なんてコミカルな言葉を、まさか現実で使いたくなる日が来るとは。

だけど本気でその言葉が似合うほど、わたしは派手に転倒したのだった。しかも、支えようとしてくれたノアを巻き添えに。


「……最悪」


地べたに大の字でへばりついたまま、低く声をもらすわたし。その隣には、同じく大の字がもう一体。


「痛てえ」


ノアが半笑いの声で言った。


「コントかよ、今の転び方」

「笑いごとじゃない。ノアがびっくりさせるから転んだんだよ」

「えー、俺のせい?」

「あんたのせいだ」


ごめんごめん、と全然悪びれない声で言うノア。

ていうかわたし、この町に来てから転びすぎじゃないか?

せっかく洗ったタオルも汚れちゃったし。勝也さんにこんな姿を見られたら、また何言われるかわかんないし。

最悪だ。そう、最悪のはず。なのに。

隣でノアが楽しそうに、くつくつと笑っているから。

……悔しいなあ、わたしまでつい、顔がゆるんできてしまう。

どうやら、この天真爛漫男には誰もかなわないらしい。

わたしはとうとう抑えきれなくなり、寝ころんだまま肩を揺らして笑った。