――『俺の視界に入るな』


「わたしだって……」

誰に聞かすでもなく、声が無意識にもれる。

わたしだって、いたくてここにいるわけじゃない。本当なら今頃、翼たちと一緒に楽しくバイトをしているはずだったんだ。

でも、もうそこにわたしの居場所はなくなってしまったから……。

ああ、だめだ。どす黒い塊が顔を出してきた。消えろ、消えろ。固くこぶしを握って念じるも、消えるどころか急速にでかくなる黒い塊。

その中に浮かぶのは……彼女の笑顔だ。


――『環。わたしね、翼と付き合うことになったの』


なんで? どうして、翼が選んだのは美那子なの?

幸せそうなふたりを笑顔で祝福しながら、心はいつも叫んでいた。

中学の頃からずっと、わたしが一番翼のそばにいたじゃない。

みんなに冷やかされるくらい仲よくて、翼もわたしのこと、少しは特別に思ってくれてたんじゃないの?

美那子だって、わたしの気持ちに少しは気づいてたんじゃないの?


――『雄大くんって絶対、いい彼氏になるタイプだと思うよ』

――『環にも幸せになってほしいから』


紙屑みたいにクシャクシャにつぶれてた心。本当は、つらかった。


「……つらかったんだよ……っ」