ああ……ビックリした。男の子にあんなことをされたのは初めてだ。

火照った頬を手のひらで仰ぎながら、どうにか心拍数を落ち着かせる。こんなにペースを乱されて、なんだか自分がバカみたいじゃないか。

でも、とわたしは思った。

不思議だな。ちっとも嫌な気持ちにはならないんだ……。


庭に出たわたしは、洗濯物を干そうとしたところで足を止めた。
勝也さんが立っていたからだ。

彼はわたしに気づく様子もなく、じっと一点を見つめている。

そこはちょうど、初対面のときにわたしが「踏むな」と怒られた場所だった。

気配に気づいたらしい勝也さんが、こちらを向く。そしてわたしを見たとたん、その顔にみるみる怒りが浮かんだ。


「なんだお前、まだウロチョロしてたのか」


容赦のないセリフに、胃がぎゅっと縮こまる。


「誰の許しを得て、この家にいるんだ? これ以上、俺の視界に入るな」

「……っ」

「目障りだ」


そう吐き捨てて、勝也さんは家の中へ入っていった。

わたしは言い返すことすらできず、呆然と庭に立ち尽くしていた。


……どうして、あんな言い方をされなきゃいけないの。わたしはそこまで悪いことをした?

さっきまでの楽しい気持ちは失われ、抑えていた感情が膨れ上がるのがわかった。それはわたしの心を侵食し、ヘドロのように汚していく。