「何してたの?」
わたしはもうひとつの切りカブの上に置いてある物を見て尋ねた。一冊の小説らしき本と、小さなノート、そしてペン。
「ちょっとね、字の練習をしてたんだ」
字の練習?
「俺、会話したり読むのは平気なんだけど、書くのは慣れてなくて」
その言葉の通り、ノアは本当に書くのが苦手なようだった。本を見ながら練習したらしい文字は、はっきり言って幼児レベルだ。
でも、字を書くのに慣れていないって、今までどんな生活をしてきたんだろう。ノアはどんな環境で育ったんだろう。
おとぎ話から飛び出したような浮世離れした外見も相まって、彼の生い立ちはいまいち想像できない。
聞いてみたいな。
という衝動にかられたけど、それはやめておいた。お互いの本名すら知らない関係なのだし、よけいな詮索は野暮だ。
「特に漢字が難しいんだよな。ちゃんと覚えてるのに、書くとメチャクチャな形になって」
「慣れれば上手になるよ。って、わたしも決してうまい方じゃないけど」
ノアがあまりにも苦戦しているので、わたしは自分にできる範囲でアドバイスをしてあげた。
基本的なペンの持ち方から教えてあげると、「ホントだ、書きやすい」と嬉しそうに言う。
そうして少し練習していると、それなりに見栄えのいい文字が書けるようになってきた。
「上手だよ、ノア」
「マジで? やった!」