朝食後、家事の手伝いを終えたわたしは、町へ探索に出かけた。
抜けるような青空と、やわらかい陽光。マフラーが要らないくらい暖かい。今日は絶好のお散歩日和だ。
こんな日にあてもなく歩いていると、嫌なことが頭から消えていく気がする。世間ではこれを現実逃避って言うんだろうけど。
一時間もすると集落の周辺は歩き尽し、わたしの足は無意識に、あの家へと続く山道を登っていた。
今日もいるかな……。そう思いながら、庭をのぞくと。
「おはよ、タマちゃん」
庭の切りカブに座った彼――ノアが、お日様にも負けない笑顔で迎えてくれた。
「……おはよう」
「待ってたよ」
何の臆面もなく放たれた言葉に、胸がむず痒くなる。
けれど彼は気にする様子もなく、「座って」と隣の切りカブに目配せした。
わたしはそこに腰を下ろし、きょろきょろと辺りを見回した。
「あの人は?」
「あの人?」
首をかしげたノアに、わたしは歯切れ悪く答える。
「勝也さんっていう人」
「ああ、出かけてるから安心して」
安心して、か。どうやら苦手意識はノアにもバレているらしい。
でもあんな風に初対面で怒鳴られたんだから、誰でも苦手になると思う。