……やっぱり、家には電話の一本くらいしておいた方がいいんだろう。自分でもわかっていたことだけど、人から言われるとなおさら罪悪感が湧く。
でも、親に何て言えばいいのかわからない。
わたしがバイトをキャンセルしたことを、すでに知っているかもしれないし、もしそうなら、なぜ帰ってこないのかと騒ぎになっているだろう。
連絡をするべき。いや、したくない。
わたしの左右で天秤が激しく揺れて、吐き気すらこみ上げた。
そんなわたしを実里さんが不思議そうに見つめてくる。これ以上ためらっていると、明らかにおかしいと思われる。
わたしは冷たくなった指で、ゆっくりと自宅の番号を押し始めた。気をきかせた実里さんが、その場を離れてくれたことは幸いだった。
近くの浴室からは、旦那さんがシャワーを浴びている音が響いてくる。
それに重なるように、耳元では電話の呼び出し音。
繰り返すその音が、蛇のようにわたしの喉を締めつけた。
『――小林です』
聞こえてきた声に、心臓が跳ねる。
『ただ今、留守にしております。発信音の後にご用件をお話しください』
あ……留守電か。張りつめていた糸が、ふっとゆるんだ。