「へえ。それで、その場所は見つかったの?」
「ううん、全然。見つけるどころか迷子になって、昨日のあの状態」
あはは、と彼が笑った。
「じゃあさ、俺が一緒に探してあげよっか」
「え?」
「宝探しは得意なんだ」
ぽんと自分の胸元を叩いて宣言する彼。その丸い瞳は楽しげに輝き、今にも元気よく部屋を飛び出していきそうだ。
誰かに似てる……と思い、すぐに誰だかわかった。そして、今度はわたしの方が笑ってしまった。
「なんで笑うんだよ」
「だって、ワンコみたいな顔するんだもん」
ごふっ、と変な音が彼の口からもれた。
「い、犬?」
「うん。昔うちで飼ってた犬」
わたしが生まれたときから家にいた、心優しい雑種の中型犬。よく一緒にイタズラをして、お母さんに叱られたっけ。
何をするにも、どこへ行くにも、わたしたちは一緒だった。
美しいクリーム色の毛に顔をうずめると、とびきり幸福な気持ちになれた。背中のほんの一部だけがこげ茶色で、それがたまらなく愛くるしかった。
「……もう、死んじゃったけどね」
愛犬とお別れしたのは、わたしが十歳のとき。
いつも隣にあった温もりに二度と触れられないことが信じられず、わたしは学校を三日休むほど泣き暮れたのだ。
思えば、ちょうどあの後くらいから家族の仲が悪くなっていったんだ。
ワンコがいた頃はみんな笑顔で楽しかったのに。
あの子の存在はわたしにとって、遠い日の幸せの象徴だ。