突然の怒号が、空気を割った。弾かれたように振り向くと、五十代くらいのおじさんが目を吊り上げ、後ろに立っていた。
「そこを踏むな!」
「えっ? あっ……」
言われて足元を見る。心なしか土がやわらかい。荒れ地のような庭の中で、わたしが立っている場所だけ雑草がない。
そこが何なのかはわからないけど、とにかくあわてて退いた。
「ご、ごめんなさ……」
「お前、ここで何をしている」
「あのっ……」
「――勝也さん」
カタカタッと窓が開いた。見覚えのある金髪が現れる。
「すみません、僕の友達なんです」
ゆったりと笑ってそう言ったのは、今朝の彼だった。
「友達?」
「はい。昨夜から」
ね? と笑顔がこちらを向いたので、わたしはとっさにうなずいた。友達になった覚えはないけど、せっかく出された助け船だ。
二対一の不利な立場になったおじさんは、大きな舌打ちをすると、踵を返して庭を出て行った。ドシンドシンと足音が聞こえてきそうな、乱暴な歩き方。
おじさんがいなくなり、わたしは彼と二人になった。
「また来てくれたんだ」
嬉しそうに彼がこちらを見た。幼さの残るその顔は、わたしと同い年くらいだと思う。
「玄関の鍵、開けるよ」
当然のように彼が言ったので、わたしは流されるように家に入ることになった。