「あ。あった」


見晴らしのいい山の中腹に、それはぽつんと建っていた。

ペンキが剥げたエンジ色の三角屋根。白い板チョコを張り付けたような木造の外壁。広い庭には草木が乱雑に茂り、パッと見、人が住んでいるようには見えない。

今朝はパニックでちゃんと見ていなかったけど、こんなおうちだったんだ。けっこう大きいな……。

集落から完全に孤立したその一軒家は、古さも相まって、時間が止まっているようにも見えた。

玄関のチャイムを押してみるも、音の鳴る気配はなかった。どうやら壊れているらしい。


「ごめんくださーい」


何度か呼んでみても返事はない。自分の声が冬空に吸いこまれていき、無性に心細くなってくる。

わたしは家の外観をぐるりと見まわした。たしか、今朝わたしがいた部屋は、玄関から向かって右側だったはず……。

あ、たぶんあそこだな。それらしき部屋の窓を見つけ、おずおずと近づいていった、そのとき。


「何をしてるんだ!」