そんな彼の視線がこちらに向いたので、わたしは箸を持ったまま固まってしまった。
「ん? お客さんか?」
「あんたがゴハン食べないから、代わりに食べてもらってたのよ」
すかさず実里さんが言う。どうやらこの男性が、二日酔いの旦那さんらしい。
「お、おじゃましてます」
わたしが頭を下げると、旦那さんは半分しか開いていなかった寝ぼけ眼に、突然パアッと光を灯した。
「JKだ。久しぶりのJKだ!」
「……へ?」
「ん、もしかしてJC?」
「あ……いえ、Kの方、です」
顔を引きつらせるわたしの横で、実里さんが「ごめんね」とため息をつく。
「アホ旦那だけど、一応こいつがオーナー。つっても、こんなボロ民宿だけどね」
実里さんがあきれたように言い、旦那さんは「JK、JK」と連呼しながら台所に消えていく。
ノリについていけず「はぁ」と生返事をしながらも、この人たちが悪い人じゃないってことだけは、なんとなくわかった。
実里さんは「ボロ民宿」なんて言ったけど、部屋を見ると隅々までよく手入れされていて、彼女がこの民宿を愛しているのが伝わってくる。
そして旦那さんの方も、たぶん妊娠中の実里さんを気遣って、台所の換気扇の下でタバコを吸っている。