「あれはサトシが誘ってきたんだよ。クラスで誰が一番勇気があるか決めようぜって」

「人のせいにしない。んなアホなことして、迷子になったらどうすんの? 誰も助けてくれないんだからね」


実里さんたちの会話を聞きながら、わたしはタラリと冷や汗が垂れた。

すみません。今まさに目の前に、森で迷子になったアホがいます……。


ああ、それにしても。昨日のわたしは本当に危ない状況だったんだ、と改めて痛感する。

今頃天国にいてもおかしくなかったし、おいしい朝食を食べることもできなかったかもしれない。

――あの男が、助けてくれなければ。


そう。きっと彼が倒れていたわたしを運び、汚れた服を洗い、温かいベッドで寝かせてくれたんだろう。

なぜそんなことをしてくれたのかは、わからないけれど。

少なくとも今朝のわたしの態度は、命の恩人に対してひどかった。お礼、言えばよかった……。


「うー。頭いてえ」


気だるげな声でふり返ると、ひとりの男性が額を押さえながら部屋に入ってきた。

ヒゲを生やしたイカツい顔立ちに、大きなガタイ。コンビニにたむろする一昔前のヤンキーみたいな、上下おそろいのスウェット。

街で目を合わせたら、瞬殺で財布をもぎ取られそうなタイプだ。