わずかなシミは残っているけど、明らかに洗ったのがわかる。いい匂いもするし、ちゃんと乾いている。
なんで? もしかして……あの男が?
「――ねえ、お姉ちゃん」
「ひゃあっ!」
いきなり下から声がして、わたしは飛び上がった。
見ると、小学生くらいのヤンチャそうな男の子が、目を輝かせて立っていた。
「もしかしてお姉ちゃん、お客さん?」
「えっ、何?」
「旅行カバン持ってるし、お客さんだろ?」
「ちょっと……っ」
有無を言わさず手を引っ張られ、家――というか民宿へと連れていかれる。そして玄関を開けた男の子は、元気のいい声を張り上げた。
「ママーあ! お客さーん!」
「はあー? 嘘つくんじゃないよー」
家の奥から返ってきたのは、若い女の人の声。
「嘘じゃないって!」
「ったくもー」
ドタバタと廊下を歩いてくる音が響く。
「こんな時期に飛び込みのお客さんなんて、いるわけ………あら、いた」
“いた”は、当然わたしのことを指しているんだろう。
玄関に現れたその人は、ハニーブラウンの巻き髪に、つけまつ毛バッチリのメイク。これぞまさにギャルママです、といった風貌。
自分とは馴染みのない人種に、わたしはおどおどした。