五分ほど下っていくと、見覚えのある景色が見えてきた。

一面の田んぼと、神社の鳥居。バス停もある。

よかった……こっちの道で合ってたんだ。ようやく得られた安堵感で、一気に足取りが軽くなる。


山道の終わりは、こぢんまりとした集落のはずれにつながっていた。

わたしがここに足を踏み入れるのは初めてだ。八歳のとき家族旅行でこの町を訪れた際は、神社や森ばかりで遊んでいたから。

集落には、数件の民家が肩を寄せ合うように佇んでいた。

どこからか漂う朝ごはんの匂い。生活の息遣いが聞こえてきそうな、どこか懐かしさも感じる町。


少し探索していると、『民宿たけもと』という看板を掲げる古い家を見つけた。

へえ、泊まるところもあるのか。前回は日帰りだったから、知らなかったな。

――そんなことを考えながら歩いていたせいだろう。足元の石にまったく気づかず、わたしは危うく転びそうになった。

寸でのところでバランスをとり、ほおっと息をつく。

気をつけなくちゃ。また昨日みたいに転んだら最悪だ。

なにしろ昨日は、雪と泥で全身ドロドロになってしまったんだから――。


あれ?

そこで、ようやく気がついた。汚れたはずの服が、キレイになっていることに。