「えっ、小林さん、どうしたの!?」
「ごめ……っ」
何でもない、と言いかったけど、喉が震えて声にならなかった。
ノア、君はやっぱり、いたずらっ子だね。まさかこんな奇跡まで用意していたなんて……。
「小林さん、大丈夫?」
雄大くんが心配そうにわたしの顔をのぞきこむ。
早く泣き止まなくちゃ。泣き止んで、雄大くんに何か言わなくちゃ。
そう思っているのに、感情の波が次から次へと押し寄せて、涙が止まらない。
そのときふいに。やさしい声が、風に乗って鼓膜を揺らしたんだ。
――笑って。僕の大好きなひと。
まるで涙をふくように、風が肌をなでてゆく。それは木の葉をさらさらと揺らし、どこへともなく消えていった。
わたしは顔を上げ、濡れた頬をぬぐうと、精いっぱいの笑顔で雄大くんに答えた。
「うん、ありがとう……大丈夫」
わたしはもう、大丈夫。
クリーム色のしっぽが、どこかでふわふわと揺れた気がした。
-END-