勝也さんの姿が、どんどんかすんで消えていく。空に映した影おくりのように、白い輪郭しか見えなくなっていく。

そして、その輪郭すらほとんど見えなくなったとき。


「環」


初めて、名前を呼ばれた。


「いい名だ。最後に呼べて、よかった」


残響のように届いた、その声。姿はもうどこにもなかった。

だけどわたしには、なぜかわかったんだ。

おじいちゃんはきっと微笑んでいた。最後に穏やかな顔をして、笑ってくれたのだと。


「ありがとう。おじいちゃん」


誰もいない草原を見つめ、わたしは静かにつぶやいた。



   ***


勝也さんの家の前に、見慣れた車が止まったのは、それから三十分ほど経ったころだった。

東京から来るのだから三時間くらいはかかるだろう。てっきりそう思っていたわたしは、大あわてで旅行バッグを背負ってノアの部屋を出た。

鍵は靴箱の上にあり、玄関を出て鍵をかけ振り返ると、車を降りるお母さんと目が合った。


「環!」