「だって昔、この町に家族旅行で来たことがあるの。まだおじいちゃんが生きていた頃。
きっとお母さんは意地を張って、おじいちゃんを訪ねることはできなかったけど、少しでも近くに来たかったんだと思う」


その言葉を聞いた勝也さんは、深くうつむくと、拳を握って肩を小刻みに震わせた。

それから、しゃがれた声で言った。


「親にとって……一番の望みは、子どもが元気でいることだ」

「うん……」

「お前は絶対に元気でいろ。そうすれば、葵も喜ぶ」

「うん……っ」


勝也さんは鼻をすすると、くいっと顔を上げた。目も鼻も赤いけど、表情はいつものしかめっ面に戻っている。

その体のむこうには、草原の景色が透けて見えた。


「おじいちゃん、また会える?」


そう尋ねたら、ふん、と鼻を鳴らされた。


「お前みたいな面倒なガキ、もうこりごりだ。だから、当分はこっちに来るんじゃないぞ」


ぶっきらぼうな勝也さんらしい返事。けれど、そこにこめられた想いが伝わるから、わたしは胸がいっぱいになった。