一陣の風が、丘を吹き抜けた。クリーム色の葉がさざなみのように揺れて、まるで君が笑っているみたい。


「ノア……」


ふと足元を見ると、ひっそりと咲いた野花の横に小瓶があった。

これが最後の手紙だ。そう確信しながら、わたしはふたを開けて手紙を取り出した。

きっと君は、ありったけの想いをこめて書いたのだろう。

それはとても、大きな文字で。



『ああ、たのしかった! さいこうの一生だ!』



ノア――…。君は、駆け抜けたんだね。

命の限り、最後までしっかりと目を開けて、君が愛したこの世界を見届けたんだね。

涙がぽろぽろとこぼれ落ちる。大丈夫だって言ったのに、また泣いてしまってごめんね。

だけど、何度だって言うよ。これは幸せだから流す涙。

胸が痛くてしかたないけど、その痛みは君に出逢えた証だから。

愛しさも、喜びも、悲しみも、痛みも、君がくれたものなら、やっぱりわたしは幸せなんだ。