ほとんど声にならない声で、ノアが最後に残した言葉。
その瞬間、こわばっていた彼の体から解き放たれるように力が抜けた。
そして、腕の中にあった微かな温もりが、重力に逆らわず落ちていった。
涙でぼやけた視界に、横たわったノアが映る。
クリーム色の毛。
つんと尖った鼻。
かつて森を駆け回った四本の足。
記憶の中の姿よりずっと痩せ細ったその体に、わたしは覆いかぶさるように頬をすりつけた。
「……ノア……っ」
ありがとう。
命の限り、わたしのそばにいてくれて、ありがとう。
限界の体にケガを負ってでも、トモくんを助けてくれて、ありがとう。
わたしのために最後の奇跡を起こしてくれて、ありがとう。
「ノア―――っ…!!」
愛しい名前を叫んだ声は、君の耳に届いただろうか。
窓のむこうの夜空には、降るような星空が広がっていた。