「俺は、今日まで十六年間、タマちゃんがいる幸せな世界で生きてきた。
十歳のときから離ればなれになったけど……たとえそばにいられなくても、心にはいつも君がいたから、幸せだった」
「やめてっ」
わたしは思わず叫んだ。
「そんなお別れの言葉、言わないで。せっかくまた会えたのに、ノアがいなくなったらわたし、どうすればいいのっ……」
彼の細い腕をつかみ、懇願する。次から次へと涙が落ちて、シーツにしみこんでいく。
そのときだった。
「俺と、出逢わなければよかった?」
「……え?」
突然の問いかけに、わたしは言葉を失った。まるで時が止まったように、目を見開いたまま彼を見つめる。
ノアに、出逢わなければよかった?
こんな悲しい想いをするくらいなら、失ってしまうくらいなら、いっそ出逢わなければよかった?
――ううん。そんなわけが、ない。
「出逢えて、よかった……!」
こみ上げる涙のむこうで、ノアがふわりと微笑んだ。