森を歩いて、たくさん歩いて、たどりついたあの景色。

言葉をなくして見とれる幼いわたしの横には、やっぱり君がおすわりしていた。

いつも、君がとなりにいた。

暑くても寒くても。嬉しいときも悲しいときも。わたしの世界は、君のいる世界だった。


『……ノア、笑ってるの?』


どれくらい景色に見とれた後だっただろう。ふいに隣の君を見ると、まるで笑っているような表情だったんだ。


『お母さーん。ノアが笑ってる』

『やあね。犬が笑うわけないじゃない』

『だって笑ってるもん』


絶対笑ってるよ! と主張すると、お母さんはふふっと目を細めた。


『環は、ノアが笑ってると嬉しいのね』

『うん!』


わたしはノアの体を横から、ぎゅうっと抱きしめた。


『ノアが笑ってくれると嬉しいよ。だってノアのこと、世界で一番好きだもん!』


ふわふわと揺れるしっぽが、わたしの頬をくすぐる。


大好き。

大好き。


ノア、大好き――。