わたしはしゃくり上げながら、ノアが寝ているシーツに顔をうずめた。

確実に近づいている、君の最期……。
目をそらさずにその瞬間を見届けることなんて、本当にわたしはできるんだろうか。


  ***


――少し、泣き疲れたのかもしれない。ベッドに突っ伏したまま、いつの間にかわたしは眠ってしまったらしい。

漂うような意識の中、また、あの夢を見ている。


『環。走ったら危ないわよ』

『大丈夫だもーん』


幼いわたしと、若い両親。
深い緑に囲まれた森。
鳥たちの声が反響し、地面には木の葉の影が揺れている。

われ先にと先頭をきって進むわたしの足元で、はっ、はっ、と短い息が聞こえた。

ノアだ。

やわらかいクリーム色の毛を揺らしながら歩く、犬のノア。

ああ、そうだった……あのとき、君もこの町に来たんだったね。お父さんの車に揺られ、初めて一緒に旅行をしたんだ。

泣きたいくらいの幸福感にあふれた遠い日を、わたしは夢の中でなぞっていく。