けれど、何もない田舎だからこそ楽しかったのを覚えている。幼いわたしはイマジネーションをフルに使って、自然を楽しんだのだ。

初めて訪れたこの町の、さびれた神社、山の稜線、迷路のような森――

そうだ、森!

唐突に思い出した。一番感動した景色のことを。

たしかあの日、わたしたちは森の中を探索したんだった。

そこにはたくさんの種類の鳥たちが住み、きれいな小川が流れていた。

ワクワクする森の国で、わたしはチビッコ探検家になり、後ろで転びそうになるお母さんの手を、お父さんが優しく支えてあげていた。

そうして、どのくらい歩いたときだろう。木々に覆われていた視界が、突然、開けて……。


……あのときに見た景色は、幼いわたしの心に初めての感動を呼び起こした。

息をのんで立ち止まるわたしを囲むように、お父さんとお母さんが寄り添っていた。

誰も言葉を発しなかった。でも、同じ幸せをたしかに共有していたんだ――。


唐突によみがえったその記憶は、わたしの胸に温かな火を灯した。


「行ける、かな……」


せっかく、この町まで来たんだ。どうせならあの景色を見たい。

湧き起こる気持ちを抑えられず、わたしは神社のわきの小道を歩き始めた。たしか昔も、ここを通って行ったはずだ。

なだらかにカーブする上り坂をしばらく進むと、枝分かれしたもう一本の小道が現れた。

未舗装のその道の先には、金網のフェンスが立てられ、向こう側に鬱蒼とした木々が生い茂っている。

間違いない、あそこだ。
フェンスがある以外は昔の記憶通りで、わたしは嬉しくなった。