その現実が受け入れられなくて、わたしは顔をそむけて立ち上がった。
「逃げるな!」
部屋を飛び出す寸前に引き止めたのは、勝也さんの声だった。
わたしは立ち止まり、ドアノブをつかんだ指を見つめながら、消え入りそうな返事をした。
「でも、もう、つらくて見ていられないんです」
「お前は永遠に死なないのか?」
「……え?」
勝也さんを振り返ると、真剣なまなざしがそこにあった。
「命あるものは必ず死ぬんだ。ノアだけじゃない。お前の家族も、友人も、教師も、お前自身も、いつかは必ず終わりの時が来る。ノアはその姿を見せてくれているんだ。目をそらすな」
力強く放たれた想いが、わたしを根底から揺さぶった。
射抜くような勝也さんの真剣な表情を見つめ、それからノアを見た。
青白い皮膚。くぼんだ目元。血の気を失った唇。ノアの命。
目をそらしちゃ、いけない。ここで逃げたら、わたしはずっと本当の意味で変われないままだ。