勝也さんがおもむろにノアの腕をとり、手首に指を置いて脈をみる仕草をする。
それから、口を開けて舌の色をみたり、まぶたを持ち上げて眼球をみるような仕草。
一連の動きのあと、勝也さんは重いため息を吐き出した。
「もう、命は尽きかけてる……」
目の前の光景が、地震のように揺れた。だけど揺れているのは世界ではなく、わたしの体だった。
頭が真っ白になり、平衡感覚を保てない。ひどい耳鳴りがする。
谷底へと引きずりこまれていく感覚に襲われ、わたしはノアが寝ているベッドのシーツを握りしめた。
「嘘……ノアが死ぬわけ、ない」
信じない。絶対にそんなこと、信じない。
「ノア……お願いだから、がんばってよ……!」
ずっとわたしを見守っててくれるんでしょう? 元気な姿を見せてよ、ねえ。
体をそっと揺らしてみても、望む反応は返ってこない。弱い呼吸をくり返すだけの唇からは、あの愛しい声が聞こえてこない。