目には見えないけれど、ノアの体から少しずつ生気が抜けていっている気がする。
砂がこぼれ落ちるように、音もなくゆるやかに。
寿命、という言葉を思い出し、わたしは身震いをした。
悪いことを考えるのはよそう、と自分に必死で言い聞かせる。
「ん? お水?」
彼の口元がかすかに開閉しているのに気づいたわたしは、脱脂綿に水をふくませた。
昨夜の時点では上体を起こしてあげればコップから水が飲めたのに、今日になってからはその力もないようだ。だから、こうして湿らせた脱脂綿を口元に運び、少しずつ水分を与える。
が、ついにそれさえも難しくなったらしい。
脱脂綿からしたたる水は、ノアの喉へと通ることなく、唇のはしから筋を作って流れ落ちた。
「ノア……っ」
いたたまれなくて、胸が張り裂けそうになる。
水さえも受け付けなくなったら、もう命は長くない。どこかで聞いたそんな豆知識が脳裏をよぎり、振り払うように頭を振った。