本当に本当に、君はあのノアなの? 信じられない。こんなことが現実に起きるなんて。


「どうして、人間の姿に……」


愕然としてつぶやくと、ノアの口元がかすかに微笑んだ。


「タマちゃんの、おかげだよ。俺の命は、本当なら五日前に尽きるはずだった。……それがまさか、タマちゃんまで、森で死にそうになるなんてね」


ふふ、とノアが弱々しく笑う。

五日前。それはわたしがこの町に逃げてきた日だ。


「俺は、願ったんだ……。自分の寿命が尽きる前に、最後にもう一度だけ……タマちゃんに会いたかった」

君と同じ、人間として――。


語尾に付け加えられたその言葉には、どこか満足したような響きが宿っていた。

黒く輝く、きれいな瞳。まっすぐにわたしを見つめるまなざし。

愛しくて、なつかしくて、ああもう否定はできない。

まちがいなく、君は。


「ノア……」


名前を呼ぶと、彼は嬉しそうに顔をほころばせ、力のない腕をわたしの方へ伸ばした。


「そう、俺の名前はノア―――大好きな人が、いつも呼んでくれた名前」


嗚咽をこらえることはできなかった。ぶわっと視界がにじんで、わたしは顔をくしゃくしゃにして泣いた。