さっき山道で倒れた彼を、わたしは勝也さんの家までおぶってきたのだ。
いくらノアが華奢とは言え、普通に考えれば女ひとりで運べるわけがない。
けれど彼の体は驚くほど軽かった。そう、まるで人間じゃないみたいに――。
「ノア、大丈夫?」
冷たい手を握って呼びかける。意識はかろうじてあるらしく、うっすら開いたまぶたから黒目がこちらを向いた。
「お願い、しっかりして。元気になったと思ったのに、なんでまたっ……!?」
「しかた、ないんだよ」
しぼり出すような声が、紫色の唇から漏れた。
「俺は、もう……寿命だから」
「そんなわけないじゃないっ」
こんなに若いのに。どう見ても、わたしと同じくらいの歳なのに。寿命だなんて恐ろしい言葉、聞きたくない。
「ごめんね……。俺たちは、人間よりずっと速いスピードで、歳をとる。俺は、タマちゃんと同い年なんだ。若く見えても、もう……」
「そんな――」
わたしはへなへなとお尻を床につけた。