『でもサユリ、本当にお願いしてもいいの? ノアはもう人間で言えばオジサンの歳なのに、引き取ってもらうなんて』

『もちろん。うちにはノアちゃんの兄弟もいるしね』

『そう言ってもらえると、本当にありがたいわ。引っ越し先のマンションはペットが飼えなくて、途方に暮れてたから』

『うちは東京とちがって田舎暮らしだけど、その分、動物を飼いやすいのよ。ノアちゃんのことも精いっぱい可愛がるから、安心してね』


なごやかに話す大人たち。それを尻目に、わたしの悲しみは増すばかりだった。


『環、ノアにお別れしなさい』


お母さんの手が肩に乗る。けれど涙ばかりがあふれ出て、かんじんの言葉が出てこない。

物心ついたときから、片時も離れずそばにいたノア……。この子がいなくなるなんて、光がない世界を歩くようなものだった。