「……生きて、たの?」
震える声でたずねたわたしは、とっさに口をつぐんだ。
訊いたら認めたことになるじゃないか、目の前のノアが、あの犬のノアだと。
そんなわたしの想いとは裏腹に、彼は無言で、けれどきっぱりとうなずいた。
……ありえない。ありえないはずなのに、彼と過ごした数日間の出来事が次々によみがえる。
無邪気な仕草。
宝探しが得意なこと。
文字をちゃんと書けなかったこと。
部屋に落ちていた綿毛。
昔の日課だったラジオ体操。
雷を怖がってわたしに飛びついたこと。
背中のほくろのような茶色い印。
そして、わたしが彼に感じていた不思議な安心感。
そのすべてが、犬のノアだと思えば納得がいってしまう。
でも、そんなことあるはずがない! 認めてしまいそうになる自分を、わたしの中の常識が全力で否定した。