頭が、ぐわんぐわんと揺れている。立ち尽くす自分の足が、ずぶずぶと地面に沈んでいくような気がする。

夕闇があたりに降りてきて、山の草木も、ノアの顔も、輪郭をなくし始めていた。


「……あはっ……」


わたしの唇から、弱々しい笑いがもれた。


「なにを、言ってるんだろうね。あの子たち」

「………」

「犬がトモくんを助けたなんて、あるわけないじゃんね」

「………」

「トモくんを助けたのは、ノアだもんね」

「………」

「ねえ、ノア」

「………」

「なにか言ってよっ……ノア」


どんっ、と目の前の胸を叩くと、手ごたえなくノアはよろめいた。一歩後ろに下がった彼が、何も言わずわたしを見下ろす。

困惑がわたしの体中を暴れまわり、呼吸が荒くなった。

どのくらいの間、わたしたちは黙っていただろう。沈黙を破ったのはノアだった。


「そういうこと、だよ。タマちゃん」


そういうこと?

意味がわからない。わかるけど、わかりたくない。

お願い、そんな真剣な顔で、変なことを言わないで。