風に半分かき消された言葉を、わたしの耳はかろうじて拾ったはずだ。
けれど、その言葉の意味を理解することを、脳が拒む。日本語として頭が処理しない。
「だよな。しかも、――が――とかさ」
「ぶはは! ますますありえねえよ」
「やっぱガセネタかあ。――なんて」
「あっ、夕焼け小焼けが鳴ってる。もう帰ろうぜ」
「そうだな」
少年たちが集落の方へ戻って行き、話し声も遠ざかっていく。
夕方五時を報せる夕焼け小焼けのメロディが止むと、あたりはしんと静まり返った。
わたしはノアの方に向き直った。ぼんやりとした彼の表情からは、なんの感情も読み取れない。
脳が少しずつ動き出し、さっきの少年たちの会話が頭に響いた。
――『そんなのありえねえだろ。遭難したトモのことを、犬が見つけてくれたなんて』
――『だよな。しかも、その犬が人間の姿に一瞬で変わったとかさ』
――『ぶはは! ますますありえねえよ』
――『やっぱガセネタかあ。犬に助けられたなんて』