あ――今、わたし、ノアに抱きしめられてる。
それこそ心臓が止まっちゃいそうな状況なのに、安心感の方が大きくて、離れようとは思わなかった。
ノアの温もりを感じながら、わたしもそっと彼の背中に腕をまわした。
「俺、タマちゃんにいっぱい心配かけちゃったな」
「ううん。びっくりしたけど、散歩できるくらい元気になったってことだもんね。もう、大丈夫だよね?」
「……ん。不安にさせてごめん」
視界のすべてがノアの体で覆われている。ああ、こんなにも、すぐそばに君がいる。
どこにも行かないで。目の前から消えてしまわないで。ずっとずっと、君がいる世界で生きていきたいよ――。
だからそのために、今、ちゃんと伝えなくちゃ。
「……ノアに、ほんとのことを言うね」
彼の背中にまわした手に力をこめて、わたしは話し始めた。
「わたし、一人旅なんかじゃないの。逃げてきたんだ。
ほんとの名前は小林 環。N県に来たのは、スキー場で七日間だけアルバイトをするはずだったから。だけど、わたしは友達から逃げて、東京の親からも逃げて、この町に来たの」
「………」