急ごう。早く、ノアのもとへ。
気持ちが急いて、足がひとりでに山道を駆け上る。「あとで食べてね」と実里さんが持たせてくれたお弁当が、バッグの中でカタカタと鳴っている。
勝也さんの家に着くと、わたしは息を整えてチャイムを押した。
が、中からの反応がなく、ドアノブに手をかけてみる。鍵はかかっておらず、扉があっさり開いた。
玄関には、あるはずの靴がなかった。胸騒ぎがして、わたしはノアの部屋に駆けこんだ。
「……いない」
もぬけの殻になったベッド。勝也さんの姿も見当たらない。
ふたりしてどこに行ったんだろう。もしかして病院? 勝也さんが連れて行ったんだろうか。
でも、あんなに病院を嫌がっていたノアが素直についていくとは思えない。
まさか、ノアが拒むこともできないほど、容体が悪化したの……?
わたしは荷物を置いて家を飛び出した。
夕焼けが怖いくらいに赤く景色を染める中、必死で彼の姿を探す。いない。