具体的に行き先を告げないわたしに、あえて追及はしない実里さん。
大きなやさしさで包みこんでくれる、お姉さんみたいな人だった。
彼女のこの人柄に、わたしはどれだけ助けられただろう。
「あ、そうそう、旦那から聞いたよ。タマちゃんが家出少女だったって」
いつものさばさばした口調に戻り、実里さんが言った。
「いやあ、全然気づかなかったよー。びっくりしちゃった」
「だましてすみません」
「あやまる相手がちがうでしょ。帰ったらご両親にいっぱい叱られるぞー。ふふふ」
「こ、怖いことを楽しそうに言わないでくださいよ」
「別に叱られたっていいじゃん。叱るのも叱られるのも、生きてるからできることだもん。幸せなことなんだよ」
実里さんはそう言って、ほんの少しだけ瞳をうるませた。
叱るのも叱られるのも、生きてるからできる幸せなこと――
以前のわたしなら絶対に同意できなかった。
けど、この町でいろんな経験をした今なら、ちょっとわかる気がする。