「タマちゃん!」
夕方四時すぎに民宿に戻ると、予想していた通り実里さんが声を上げた。
「心配してたんだよ。朝ごはんも食べずに出て行ったきりだったから」
「すみません」
「まあ、無事で何よりだけどね」
そう言って顔をほころばせる実里さん。その言葉にはもちろん、我が子に対する想いもふくまれているのだろう。
「トモくんの様子はどうですか?」
「うん、おかげさまで元気。昼過ぎまで爆睡して、起きた直後におにぎり四つたいらげたよ」
「そっか……安心しました」
「あ、でもね、ちょっと変なことが――」
実里さんが何かを言いかけたとき、別の部屋からトモくんの声が響いた。
「嘘じゃねえってば!」
「えー、まじかー」
「まじまじ! サトシにも見せてやりたかったよ」
「俺も見たかったなあ」
サトシくんというのは、トモくんがケンカをした例の友達だ。
よかった、仲直りできたんだ。何やら盛り上がっている会話を聞きながら、わたしはホッと胸をなでる。