できればずっと寄り添っていたいけれど、そんなわけにも行かず、わたしは物音を立てないよう静かに立ち上がろうとした。

が、ふいに服の裾が突っ張り、動きを止めた。

視線を落とすと、ノアが眠ったままわたしの服をつかんでいた。

――行かないで。まるで、そう言うように。


「ノア……」


離れがたくなる。少しでも目を離したら、ノアが消えてしまいそうな気がする。

唇をかんで彼の寝顔を見つめていると、突然、横から武骨な手が現れてノアの手に重なった。


「……勝也さん」

「今のうちに民宿に戻れ」


勝也さんがそっとノアの指をほどき、わたしの服から離す。


「……はい」

「チェックアウトして、またここに戻ってくればいい」

「えっ?」


わたしは弾かれたように勝也さんを見る。彼は目を合わさず、ぶっきらぼうに言った。


「お前はあと少ししか、この町にいられないんだろ」


こいつのそばにいてやれ。低くつぶやいたその言葉に、わたしは深々とうなずいた。


   ***