食べていないのはわたしだけじゃなく、ノアもだ。彼の食欲は皆無らしく、かろうじて水を少し口にするていど。
そんな姿を前にして、食べ物が喉を通るはずがなかった。
「勝也さんの方こそ、何も食べてないんじゃないですか?」
わたしの知る限り、勝也さんが食事をとっている様子はない。せめて水分くらいは、と思い、昨日まとめて買っていたスポーツドリンクを一本差し出したけれど、彼はあっさりとそれを無視した。
「どけ。包帯を替える」
勝也さんがため息まじりに言い、わたしは場所を移動した。
手際よく包帯をほどく勝也さんの後ろに立ち、あらわになったノアの傷口を確認する。
傷は思ったより深くはなく、血もちゃんと止まっていた。さっき勝也さんが言った通り、それほど深刻なケガじゃないのかもしれない。
……でも、じゃあどうして、こんなに苦しそうなんだろう。そういえば、昨日の昼間に会ったときも体調が悪そうだったんだ。
おかしい。何かが、変だ。
言いようのない不安が、胸の中で風船のようにふくらんでいった。それは限界まで膨張し、今にもはち切れそうになる。