まさか――。
嫌な想像が頭をもたげ、不安が煙のように充満していく。わたしはそれを追い払いたくて、何度も胸をさすった。
けれど勝也さんの家の前に着いたとき、不安は現実になった。赤いシミが道しるべのように、庭を通って玄関へと続いていたからだ。
全身に冷や汗が噴き出し、わたしは狂ったようにチャイムを連打した。
「鍵は開いてる!」
勝也さんの張りつめた声が中から聞こえた。勝手に入って来いという意味だろう。それはつまり、手が離せない状況ということか。
不穏な感情がわたしを急かし、ノアの部屋へと駆けこんだ。
「ノア……っ」
思わず、息をのんだ。
ベッドに横たわるノアの、真っ赤に染まった左腕。そして何よりも異様なのは、その顔色だった。血の気がまったくなく、青白い絵の具を塗ったよう。
「大丈夫!?」
「騒ぐな。ケガはたいしたことない」
消毒をしながら勝也さんが言う。