夢の中で、お母さんの声を聞いた。
『環、走ったら危ないわよ』
今よりずっと若々しく、はりのある声。
『大丈夫だもーん』
答えるわたしの口調もずいぶん幼い。
周囲には鬱蒼とした木々。鳥たちの歌声。
ああ、わかった。これは、あの日だ。子どものころ、家族でこの町を訪れたときの光景なんだ。
夢の中のわたしたちは、あの日と同じように森を探検している。
どこまでも続くような森の中をひたすら歩き、見えてきたのは、やっぱりあの日と同じ美しい景色だった。
その景色を前に、わたしたちは言葉もなく感動している。
わたしがいて。お父さんがいて。お母さんがいて。そして――。
『……ノア、笑ってるの?』
ふいにわたしが訊いた。
隣にはなぜか、ノアが立っていた。おひさまに溶けそうな金色の髪。