すると、旦那さんは髭の生えた口元に笑みを浮かべた。
「それ以上は、あやまるの禁止な。自分を責めるクセがつくと、そこで思考がストップしちゃうからさ」
「……はい」
その通りかもしれない。わたしがこの町に逃げてきたのは、自分を責めてばかりで受け入れられなかったからだ。
誰よりもわたしにダメ出しをしてきたのは、お母さんじゃなく、わたし自身だったのかもしれない。
「タマちゃんの親もきっと心配してる。気持ちの整理がついたら、ちゃんとあやまって帰るんだよ」
「知ってたんですか?」
思わず目を見開いたわたしに、旦那さんがニカッと笑う。実里さんによく似た笑顔。
「最初っから気づいてたよ。俺も中学の頃、家出したことあったからさ。そのときは結局、金がなくなって家に戻ったんだけど、もろに親父のグーパン喰らったよ。おかげでほら、これ」
白い前歯を指さして、「差し歯なんだぜ」と旦那さんが笑った。わたしもつられて頬がゆるむ。
笑っていられる状況じゃないときほど、きっとこの人は笑うんだろう。自分のために、そして人のために、笑える場所を作るんだろう。そう思った。