わあっ、と泣き崩れる実里さん。それをおばあさんが必死になだめ、おじいさんが悲痛な面もちでエンジンをかける。

意外にも器用なハンドルさばきでUターンした車が、集落の方へと走り去っていく様子を、わたしは吹雪の中、立ち尽くしたまま見ていた。


――『入っちゃだめって、あれほど言ってたのに……!』


実里さんの慟哭が、何度も頭をループする。

そうだ、彼女はいつも口を酸っぱくして言っていたんだ。決して森には入るなと。

わたしが初めて実里さん親子に会った日も、ちょうどそんな会話があったはず。


――『こいつがホント、誰に似たのかヤンチャでさ。こないだも子どもだけで森に入ろうとして、先生に叱れたの』

――『あれはサトシが誘ってきたんだよ。クラスで誰が一番勇気があるか決めようぜって』


森はトモくんたち子どもにとって、禁じられた場所であり、同時に、勇気を象徴する場所でもあった。

勇気。その言葉を数時間前にトモくんと交わしたのは……わたしだ。


――『トモくんの勇気を見たら、きっとマナちゃんもサトシくんも嬉しいと思うよ』

――『そっか、勇気か』

――『そう、勇気だよ』


どうしよう……トモくんをたきつけたのは、このわたしだ。