寝起きとは思えない俊敏さでノアが起き上がり、耳をそばだてる。どうやら家の外から聞こえるらしい。わたしも同じように耳をすましてみたけれど、よくわからない。
「そうかな、何も聞こえないけど……」
「しっ」
ノアは口元で人差し指を立て、表情を張り詰めた。
「女の人の声だ」
「女の人……?」
息をひそめ、外の物音に注意をはらう。
強い風の音、木の葉がこすれ合う音、どこかで空き缶が転がるような音――
その中に、かすかに女性の声が混じっているのを、わたしの耳がとらえた。
悲痛な叫び声。何か同じ言葉をくり返している。でも、なんて言っているのかは聞き取れない。
「トモ、って叫んでるんだ」
ぽつりとつぶやいたのは、ノアだった。
「トモ……?」
ってまさか、トモくんのこと? じゃあ、あの声は実里さん?