森をあとにしたわたしたちは、勝也さんの家に戻った。
その間にも雪は勢いを増していき、ノアの部屋が暖炉で温まるころには、窓の外がすっかり白くかすんでいた。
「できた」
ノアが満足げにノートを顔の前で広げる。そこには、びっしりと書かれた文字。昨日に引き続き、字を書く練習だ。
「かなり上達したよね、ノア」
「いえいえ、それは先生がいいからですよ」
「いえいえ、それほどでもありませんよ」
なぜか敬語になってお辞儀をし合うわたしたち。
柱にかかるアンティーク調の振り子時計が、ぼーん、と心地いい音を鳴らした。いつのまにか、夕方の五時だ。そろそろ民宿に帰る時間。
だけど雪は降りやみそうにないし、空にはねずみ色の雲がびっちりと膜を張っている。
そういえば、日本海側の地域では雪と雷が同時に発生することがあるんだっけ。
「なんか、雷でも鳴りそうな天気だね」