がさっ、と音が近くで聞こえ、わたしは驚いて目を開けた。視界のはしで草が揺れて、そのむこうに影が一瞬動いたのが見える。

何だろう? 動物? その方向に目をこらしてみたものの、森の中は見通しが悪く、それらしきものは確認できない。


「タマちゃん」


呼ばれて振り返ると、ノアが立っていた。


「いきなり走るからビックリしたじゃん」

「ごめん」


わたしは苦笑いで答え、さっき音がした方に視線を戻した。


「なんかね、動物がいたみたい。一瞬、影が見えたの」

「ウサギ?」

「ううん、もうちょっと大きかった」

「じゃあキツネかな。たまにいるから」

「そうなんだ。すごいね」


よかった。普通にノアとしゃべれてる。わたしが変に意識してること、バレていなくてホッとした。


「そんなことより、天気が悪くなりそうだから今日はもう帰ろう」


そう言って、ノアが左手を差し出す。

つなぐことに今さら躊躇していると、彼はわたしが帰りたくないと思っていると解釈したらしく、「宝探しはまた明日ね」と笑った。

“また明日”。
――そのまた明日も。その次も。


ずっと手をつないでいたいと、もしもわたしが言ったなら、ノア、君はどう思うんだろう。



   ***