「ごめん……」
ううん、と返事するノアの顔は、意外にも明るかった。
「タマちゃんが気にすることないよ。別に特別なことじゃないし」
あっけらかんとした態度に、わたしはどう反応すればいいのかわからない。
ノアはわたしの手を離し、両手を地面について空を仰いだ。森の木々の合間から、冬の分厚い雲がのぞいている。
「俺ってラッキーだったんだ。里親になってくれた人たちが、すっげえいい人たちだったから。まあ、それなりにいろいろあったけど、途中からは兄弟とも一緒に暮らせたし」
「兄弟、いるの?」
「うん。双子の兄貴がいた」
いた。その言葉の意味することは何だろう。ざわざわと胸が騒ぎ、同時に吹いた風が木の枝を揺らす。
「あの……ノアのお兄さんって今は」
「死んだ。去年の冬」
そうつぶやいた、一瞬だけ。ノアは寂し気に目をふせた。