背中にぶわっと汗が吹き出し、口をぱくぱくさせるわたしに「タマちゃんはー?」と無邪気な質問をくり返すノア。


「し、知らないよっ!」


顔をのぞきこもうとするノアの体を押し返す。と、固い胸板の感触が手のひらに伝わって、よけいに恥ずかしくなった。

ノアのばかたれ。真剣な話をしてたのに、急にこんなこと言うなんて。

でも、わたしもばかだ。別に動揺する必要ないのに、心臓ばっくんばっくんさせちゃって。ばっかみたい。


「ノアの両親のことも話してよ! わたしばっか話してるじゃん」


どうにか話題をそらしたくて、わたしはつっけんどんに要求する。

けれど、彼から返ってきた言葉は思いがけないものだった。


「知らないんだ、俺」

「……え?」

「父親は会ったことないし、母親も俺が生まれてすぐ死んだから」


わたしは目を見張った。にわかに芽生えた罪悪感で、喉に苦いものが広がる。