お母さんはそれまで以上にわたしにダメ出しをするようになり、わたしはそんなお母さんに認めてもらいたいという気力すら失せた。
お父さんはますます帰宅が遅くなり、まるで空気のようだった。
ひょっとしたら、「出逢わなければよかった」というお母さんの希望を汲んで、自らの存在を消していたのかもしれない。
いつ息が止まってもおかしくなかった。
食事をしていても、歯をみがいていても、家中の空気がみしみしと音をたてるような圧迫感で満ちていた。
「だから、ね。わたしはノアが言うような、愛情を受けて育った子じゃないの」
「……出逢わなきゃよかった、か」
ノアがふいに、言葉をなぞるようにつぶやいた。
「タマちゃんも同じこと言ってたよな」
「わたしも?」
意味がわからず目を丸くすると、彼は「ほら、昨日」と付け足す。
「……あっ」
たしかに昨日、勝也さんの家の庭でわたしは言ったんだ。
――『出逢わなきゃよかったんだ……っ! 美那子なんかに出逢わなきゃ、翼は今でも……!』
独り言のつもりだったけど、ノアにも聞かれてしまったんだった。