グラスを床に投げつけるお母さんの言葉を、お父さんは死んだような表情で黙って聞いていた。それを見ていたわたしも、きっとお父さんと同じような顔をしていたと思う。
わたしは弱々しく笑い、指先で雪だるまをつついた。
「……出逢わなきゃよかった、って……」
ぽとり。雪だるまが崩れる。
「お父さんなんかと出逢わなきゃよかった、って。お母さん、言ったの」
出逢わなければ。結婚しなければ。こんな家庭を作らなければ。
――じゃあ、わたしは? お母さん、わたしの存在はどうなるの?
お父さんとの出逢いから全否定するのなら、わたしの存在すら否定したも同じだ。テーブルに突っ伏して吐き出したお母さんのその一言は、わたしの心を殺した。
それからというもの、わたしたち親子の会話からは笑顔が消えた。