そんなお母さんの両親が、事故で他界したと教えてくれたのは、スーツを着た見知らぬ男性だった。


――『小林 葵さんですね? はじめまして。わたくし、弁護士の赤井と申します』


突然現れたその男性が、ロボットのように抑揚のない口調で話し始めたとき、お母さんの肩は見てわかるほど震えていた。

実家と絶縁状態だったお母さんは、そのとき初めて親の死を知った。

そう、すべては灰となり消えた後のこと。

葬儀の連絡すらもらえなかったのは、遺産に目がくらんだ親戚のしわざだと思う。お母さんに残されたのは、最低限の相続財産のみだった。


「それ以来、お母さんが荒れて……。前からお父さんとはケンカばかりだったけど、もっとひどくなって」


親の死はお父さんのせいじゃない。それは誰でもわかること。

でも、あのときのお母さんには受け入れられなかったんだろう。誰かを責めなくては自分を保てなかったんだろう。


――『あなたと結婚したせいで、わたしは親の死に目に会えなかったのよ』